2016年1月某日
3月13日東京オペラシティー、4月2日札幌ザ・ルーテルホールでバッハの無伴奏全曲演奏会を開くことになった。日本では2004年のライヴ録音以来となる。
今回は幸運なことが二つ重なっておそらく全曲をバロックチェロで弾くことになった。
ことの発端は世田谷の高橋祐太さんの工房に調整で通っているうちに高橋さんが作成した、アマティモデルの5弦チェロがあることに気付き、行くたびにちょっと弾かせてもらっていたのがきっかけだ。アマティはバッハが考えた又は知っていた5弦チェロを作っているのである。高橋さんの工房にはその大きな写真も飾ってある。この5弦チェロはいわゆるvioloncello pccoloではなく、長さがいわゆるストラディヴァリウス型(現在普通に見られるチェロという意味で)よりやや胴体が短い。弦の長さが後者が通常685mmから690くらいだがそれよりちょっと短い。ボディーもそれに比して少し短い。高橋さんの楽器はモダンとバロックの中間くらいの仕様でできている。
この楽器で第6番をどうしても弾いてみたくなった。かつて学生時代に6番をさらい始めた頃からそれは夢だったし、折に触れて5弦で弾くイメージトレーニングをしていたのでなおさらだ。しかしこの楽器をすぐ購入する予算はとりあえず今のところ無い。諦める代わりに図々しく貸してもらえないかお聞きしたら、何と快諾していただいた。そういうわけで目下5弦チェロで6番を準備しているという次第。
ところが、弾くにあたって様々な主に物理的問題が生じてきた。
まず、5弦チェロたる所以の一番高いE線の弦。
現在僕がいろんな所から情報を集めた結果、イタリアの二つの会社がガット弦を作っていて、そのひとつがこの楽器にもつけられていた。問題はこのE線はピッチを440くらいまで上げるのがとても困難なことが判明した。要するに切れてしまう。解決法は何とかせめて415(440から見ると約半音低い)まで上げて、残りの5曲も自分のモダンチェロをガットに代えて弾くことを考えた。そうしているうちに何とか415でほぼ安定してきたのでほっとした。だが、それにしてもバロックとモダンの中間くらいに作成されたチェロと自分のモダンチェロとの間の溝はどのくらい生じるだろうか全く謎のままだ。
とにかく、5弦チェロになれる為の練習を開始。まずは、E線が上がってくるまで4弦の他の組曲から練習に取りかかる。弓もバロック弓である。この弓もなかなか良い高橋さんからおかりしたものである。そうして弾いているうちにバッハの組曲はやっぱり、バロック仕様の楽器の方がいろんな表現や響きが素直に自然に作れることに今更ながら体感してしまった。いっそのこと今使っている楽器をバロック仕様にしてしまおうかな?とか思い始めた。しかし、モダンで弾かなくてはならない曲も控えている。困った所に救いの手が差し伸べられたのである。
copyrigt Naoki TSURUSAKI